手を、はなさずに

・・・震災から少したって、「手をとりあって」、という曲がよく聴かれる、流されるようになったと記事で読みました。・・・時々で必要とされる歌、音楽、言葉・・・どんなときでも生きようとする本能が求めるもの・・・
(曲のことはご存知のかたも多いかもしれません)

私も、いつしか『手』という存在が大きなものになっていることに気付いています。
だから、この記事を読んだときに、からだの奥からいろんなものがこみあげて・・・

直接的な言語ではいえない、はかりしれないものを物語に託すように、
それはまだ、安易だとしかられたり、揶揄されたりすることもあるだろうけど
永い時間をかけてようやくみえてきたものだから

何もせずにはいられなくて、私にはそれしかなくて


空を見上げてしばしじっとしていた海野はふいに。
「翔の手を離すなよ、武士」
小さくつぶやくと、静かに去っていった。

(中略)
「翔、手、出して」
「何だよ、いきなり・・・・・・」
「いいから」
その意図を、何となく察した翔はむくっと起きあがり、ぽりぽりと頭を搔いた後立ち上がった。
そして敷き布団をぴたり、とつける。
「これで文句ないだろ」
何か言いたげな武士に。
「ちゃんととなりにいてやっから安心して寝ろ!!」

武士は、狐につままれたような顔をしている。
「・・・・・・ったく、ケガ人がよけいな心配すんじゃねぇよ」
ぶつぶつ言いながら横になったかと思うと。
すでに翔は眠りについている。
自分の知らないところでたくさん傷ついて、それでも。

もう、ひとりで苦しまなくて、いいから。

『君はそれ以上~出逢い』 2009年文芸社・楪 蒼朋
“まだ見ぬ君に”

∞∞∞∞

何気ない日常がいつもある訳じゃないと知るとき
心に宿るものはあるだろうか
となりにあるはずのあたたかさ
それも永遠ではないかもしれないけれど
たとえ同一の苦しみを共有できなくても
すべてを理解できなくても
思い合うことで心を重ねてゆける

そう信じたい