夜の真ん中で
しばらく前に、ある歌人のかたが学生時代の娘さんの、
ちょっとした冒険にふれていた。
その舞台となったのは、夜の遊園地。
・・・実際に自分が経験したことではないのだけど、
一瞬「あれっ?」と。
観たような、気がしたんだ・・・
なぜそんな光景がみえたんだろう?
私は真夜中の街、というのを感じてみたいと
いつのころからか思っている。
もともと夜型の人間なので、しんと静まり返った
深夜の空気が好きだった。とはいえ、街中に
その時間いることは現実にはむつかしく・・・
だからといって、真昼と変わらないような状況に
なるのも少し寂しい。
(人の生活リズムもさまざまだから、夜中にも
昼同様の動きがあっても、と考える人の意見も
分からなくはないが)
止まることのない街の空間って呼吸できなくなりそうで怖い。
しらない世界と風景・・・
それは憧れも含まれていたのかもしれないけれど、
まるで昔、どこかでみていたように浮かび上がって。
その遊園地は私のなかにあった。
私を通してみえる、別の次元の彼らはたしかにそこで
生きている、動き、話し、じゃれあい、笑う。
姿を変えた私が存在する場処。
ふだんめったにみることのない、
無邪気な笑顔がそこにある。
・・・そういえば、彼らに会ってから、ずいぶん
顔つき変わったかも?
一度だけ、学校や仕事と一線を画した友人である
師匠と、夜の街を歩いたことがある。
時間も距離も、さしたるものではなかったし、
たいしたことではなかっただろう。
それでも・・・
ほんのすこし前までは歩く、動くこともままならず、
そうした出会いさえもありえないことだった私には
とてつもない事件だったのだ。
まさにその瞬間は、時空をはるかに超えたものだった。
娘さんの行動は、その世代の学生さんだからこその
ものだったと思う。そこから考えると決して若くもないのに
自分はよくそうした行動をとったもんだと半ばあきれつつ。
・・・ただ、すべて終わりだと絶望しかけたときからの
道のりをおもうとなにかが着実に廻りはじめている・・・
ささやかにかなえられてきた夢も。
驚くほど変化してゆく自分も変わらぬ自分もかかえて生きている。
時折、あの夜をみつめることで、
私は夜明けを待つのかもしれない。